版画は予測できないからおもしろい|安曇野SKY版画工房

「版画の一番のおもしろさは、予測ができないことです。」そう語るのは長野県松川村に工房を構えSKY版画工房の福本さん。福本さんご夫婦は30年前からこの地で版画作品を作り続けてきました。安曇野を訪れる人との交流、この地で版画を制作することのおもしろさなどをお聞きしました。

安曇野SKY版画工房 福本吉秀さん, 福本陽子さん
所在地 長野県北安曇郡松川村東松川5721-1481
電話 0261-62-6398
定休日 火曜日(冬季不定休)
Webサイトはこちら

松川村に工房を構えたきっかけ

私たちは2人とも兵庫出身で、大阪で計10年ほど友人と共同の版画工房を構えていました。その後、松川に移住して20年目になります。

シルクスクリーンの制作には大型の機械を使うため広い工房が必要ですが、ここは大阪に比べて土地が安く空気もいい、理想的な環境だと思えました。移り住んできた時は周りが一面田んぼで、北アルプスも見渡せました。最初は窓が一面真っ白になるぐらい寒かったですが、最近は少し暖かくなりましたね。ただ、寒いと良いこともあって外に出なくなるので仕事が捗ります(笑)

工房ではシルクスクリーン版画や版画で作った布雑貨などを制作販売しています。去年はレジ袋有料化でエコバッグが人気でした。版画のモチーフとなるのは、カエル、ネコ、植物、山といった身近な自然。私たちは周りにあるものをモチーフにしており、移住してきて作るものが変化しました。版画の技法はそのままで、作風だけが変わっていきます。

お客さんが多い季節と安曇野スタイル

安曇野の観光シーズンであるゴールデンウイークが一番多いです。また、例年11月に開催される安曇野スタイル(安曇野の工房やアトリエが一斉に開かれるイベント)では、1日50人から60人ぐらいのお客さんが来てくれます。

安曇野スタイルは2004年に友達同士で始めました。元々の趣旨は、工房を持っている人たちが作品だけでなく制作過程や工房を持ったきっかけも公開するというものでした。ちょっとしたお祭り気分で、1日1組ぐらいでも来てもらえたらという感じでした。一回目から思いがけず多くの人が集まって驚きました。

ずっと住んでいると最初に来たときのワクワク感を忘れてしまいますが、それを思い出そうという想いもあります。安曇野を周り工房を見て喜んでもらうことで、私たちも安曇野の良さを再発見できます。安曇野スタイルをきっかけに移住した人やカフェを始めた人も増えましたね。

お店を訪れる人たち

地元のお客様も一軒家が多いためか、壁掛け目的で購入される方が多く、大阪よりも作品への関心が高いように思います。壁に何かを掛けるというのが、家に美術品を置くにあたっての「初級編」なのかもしれません。そして、作っているところを見るというのは面白いみたいで、観光客を中心に多くの方達が来てくれる様になりました。

以前は各地でのギャラリー販売がメインでした。作品を先に発送してから自分たちは高速バスで移動するという手段を取っていました。コロナの今は作品だけが会場に行くことも多いです。

ただ交通費やホテルの滞在費などの経費をもかさむので、それならお客様を工房に来ていただいたほうが合理的ではないかと考える様になりました。制作時の感情や過程も工房のほうが説明しやすいですからね。

都会から来る人は案外安曇野に遠さを感じないし、観光ついでに寄れるので、お互いメリットが多いです。なにより、都会では版画工房自体を見る事が少ないと思いますし、制作に使う版やインクの匂いなど制作現場が見れるのがおもしろいようです。

サイトをじっくり見てから来てくださる方も多くなりました。少しずつですがサイトの効果がでてきたのかなと思います、 展覧会などが開催しづらい今、もう少しネットに重点をおいても良いのかなと思っています。

版画を作ることのおもしろさ

版画を作るというのは論理的な作業で、頭の整理ができることも大切で、それができないとどこかでおかしくなったりするんです。

一方で版画の面白いのは予測できないことです。計算できるならつまらない。版画って一回目刷ってみるのが一番面白いんですよね。考えた通りになっているのかどうかの一刷り目の瞬間、ただ刷り重ねると色の組み合わせがパズルの様に難しくなっていくんだけど、それを解決する面白さもあったりします。

コロナ禍ではなかなか外に出られないので、工房で版画が作れるのは幸せかなと思いますね。時間があるので作りたい放題ですよ(笑)。活動を制限されている今、作品を貯めておくことは将来の自分自身への投資にもなります。

最後に-今後の予定について-

各地のギャラリー様から企画はいただいておりますが、コロナ禍なので具体的な話がすすめにくくなっております。工房は営業しているので、サイトで営業日を確認してお越しください。

この記事を書いた人

Maple Tree

2015年から長野県池田町でフリーペーパー『いけだいろ』を発刊する地域団体。構成メンバーは池田町在住もしくは出身の20代5名。2017年度長野県元気づくり大賞受賞。