池田町を中心に芸術活動を行う片瀬琴絵さん。今回は、片瀬さんが作品を制作するうえで意識していることやこだわり、3月に開催した個展への思いなどについてお聞きしました。
片瀬琴絵さん 1998年池田町生まれ、池田町在住。安曇野を拠点に2016年よりアーティスト活動を行う。Instagram @okotoeo
「君は質感(テクスチャ)を創る人だね」
――片瀬さんはアーティスト活動6年目にして、初の個展を3月に開催すると聞きしました。
片瀬 3月に豊科のカフェで展示会を開きます。オーナーさんがサポートしてくれていますが、この前その方に「君は質感(テクスチャ)を創る人だね」と言われました。これまで自分は「色に惹かれている」と思い作品づくりをしてきたので、意外な気づきでした。
――作品制作の軸が、色ではなく質感だったと。
片瀬 振り返ると質感への関心がかなり強かったんです。生地の素材の本、紙、布などを集めていた時期もありました。私は色を使った表現をしてきたつもりでしたが、実は素材を気にかけていたのだと。
――具体的に素材を気にかけるとはどういうことでしょうか。
片瀬 質感を素材として使うといえばいいのかもしれません。私は電気も本も素材だと思います。質感というのは、その本の紙の状態やライトの光り方なのかなと。
色が好きな一方、私は色に鈍感みたいです。例えば、桜の色を選んだつもりが桜だと思われなかったこともありました。それもありタッチに気を遣っていたんだと思います。
「絵を額に入れたくない。それは絵の凸凹に触れてほしいから」
――今まで色にこだわっていた理由も気になりますね。
片瀬 色の名前って面白いですよね。小学生の頃、コーラルピンクという色が気持ち悪く嫌いでした。月日が経ち絵を描くようになり、色を使って描くのだから嫌いな色があってはいけないと思いました。あるとき、紙のコーラルピンクは好きになれましたが、布のコーラルは嫌いだと気づきました。絵柄や素材によって色の好き嫌いがあったんです。
その後、日本の絵の具に触れる機会がありました。猩々緋(しょうじょうひ)色、煙草色など様々な色の名前があり、使ってみたらザラザラしていて楽しい。当初は色の名前に魅かれていると思っていましたが、段々とザラザラの材質が好きなのだと気づきました。
これまでさまざまな場所で展示をしてきましたが今回、人に言われて初めて「ああ、自分は質感の人なんだ」と気づきました。
例えば色鉛筆とクレヨンとアクリル絵の具の緑のトーンは一緒かもしれません。でも私はアクリル絵の具の質感が好きです。逆に色鉛筆の真っ直ぐな線とかクレヨンのガサガサ感は嫌いだったりします。
――ガサガサ感は質感の一例ですが、視覚的なようで非常に触覚的ですよね。作品作りをする中で触覚に訴えるための工夫はありますか?
片瀬 私は絵を額に入れたくありません。理由は絵の凹凸に触れてほしいからです。作品の大きさも作品との近さに関わってきますね。光の入り方で陰影が変わるので、照明も作品を展示する上で重要な要素です。
最後に-「Art Brut」に込めた意味-
――ところで新しい展示のタイトルは「Art Brut(アール・ブリュット)」ですね。このタイトルにはどのような思いが込められているのでしょうか。
片瀬 アール・ブリュットは「生(き)の芸術」などと訳されるフランス語です。社会文化の影響を受けていない芸術、芸術教育を受けていない者による芸術といった意味があります。最近、調べているうちに「生(き)の芸術」の言わんとしていることがわかってきた気がしています。
日本では、この言葉は「障害者アート」と同じ意味で使われています。だから展示でこの言葉を使うことには迷いもありました。
――日本では芸術に関する教育を「受けられなかった」人のアートという意味合いになりがちですよね。
片瀬 アール・ブリュットを日本語で解釈するのは難しいことです。なにより、私は高校まで日本の教育を受け美大にも一年通ったので、アール・ブリュットというと「君は芸術教育を受けてるじゃないか」と言われそうです(笑)
最近は展示に向けて、道具の表情を観察して描くことを意識しています。筆を垂直に使ったり、絵の具を水に溶いたり、ボンドでツヤを加えたり。そこに、自分の気持ちも加わる。こういった道具との遊び方は教わったことではなく自分の発見だと思い楽しんで描いているので、アール・ブリュットという展覧会名で展示してもいいのかなと思っています。
Art Brut No.1
2021.3.3(wed)→3.28(sun)(月・火休館)
BELL WOOD COFFEE LAB 10:00-18:00