蝶と蛾の魅力を深堀りする宮田島。今回は「冬の蝶と蛾をクラフトパーク裏で散策」と「2020年度に出会った好きな蛾ベスト3」をお届けします。
取材時、信州大学大学院修士2年(現在は卒業し、就職)。主に、蛾の採集と標本制作に力を入れている。「蛾なら任せろ。標本の鬼」
信州大学大学院修士2年。小学生の頃に蝶への興味を抱く。毎年おこなう写真展は2020年で14回を数えた。「池田の蝶博士」
池田町クラフトパーク裏の山で春の蝶を探して散策
宮田 2月中旬に取材するということで、今回は池田町のクラフトパーク裏を散策しました。実は、当初は寒いから外は歩けないし蝶も出てこないかなと思っていました笑 しかし当日になったら春日和で陽も差し、特に南向きの斜面の気温が上がったので春の蝶が3種類見られました。
今回見られたのは、スジボソヤマヤマキチョウ、テングチョウ、キタテハです。どれも成虫越冬して姿を現す蝶です。毎年この場所は訪れていますが、去年と比べてテングチョウがは少なかった気がします。
田島 僕は最近まで修士論文を執筆しており、この冬はアパートと研究室の行き来だったので、みんなと一緒に外を歩けただけで良かったです。昼間、外を歩くのは本当に久しぶりで。研究中は蛾と同じで夜行性だったので笑
今回訪れたクラフトパークは、いけだいろ17号の取材時に糖蜜採集をした場所です。あのときはミスジキリガやミツボシキリガがいましたよね。
宮田 今回の取材の日の夜、池田町の家の近くでライトトラップをしました。そのときはミスジキリガやイチゴキリガが見られました。
田島 今度ぜひ一緒にやりましょう!
宮田 蝶と蛾の話から逸れますが、あの日は日中暖かかったので、トレッキングコースを歩いている方とたくさんすれ違いましたね。マウンテンバイクの人、グループで明科から歩いてきた人、子どもをおんぶして歩く家族などなど。毎年同じ場所で蝶を探していますが、これまであんなに人に会ったことが無かったので驚きました。
田島さんが2020年度に出会った好きな蛾ベスト3
フタスジギンエダシャク
田島 長野県版レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に指定された草原性の蛾です。金色の線がきれいな種で、昼間に活動します。何を食べているのかなど生態はイマイチ不明ですが、僕が撮影した場所は荒れた藪であまり人が入らない場所に生息していました。人が入りたがらない場所にいるから見つからないだけで、実はしっかり探せばいるのかも…
宮田 田島さんの写真は、生息環境情報が含まれているのが特徴ですよね。勉強になります!
マイコトラガ
田島 ノブドウを食べるトラガの一種です。長野県では梓川水系流域でしか記録がない分布が不思議な種です。名前の由来は舞子さんにあり、平地では4月から標高が高い場所では5月2週目頃までみられます。
宮田 赤い筋と奇抜なモフモフした前足が特徴的ですよね。山の色彩が薄い時期に派手な蛾が出てくるという点もワクワクする蛾です。
アズサキリガ
田島 僕が大好きな蛾で、名前の由来は梓川です。ギラギラ鱗粉の質感がとても良く、五葉松の分布地にいます。この蛾は飛翔力が弱く、生息地がピンポイントで、且つ光源の近くに飛んでこないので撮るのが難しく、逆にそれが蛾屋を惹きつけます。よく似た蛾にタカオキリガがいます。低地だと3月半ばにいますが、亜高山帯では6月頭頃まで見られます。
宮田 見に行きたい…!得も言われぬ色と質感で、高級感がありますね。薄く青っぽいのも魅力的です。
宮田さんが2020年度に出会った好きな蛾ベスト3
ウスベニキリガ
宮田 田島さんと一緒にいたときに撮影した春キリガの一種です。アカバキリガと同じ属ですね。割と明るい雑木林にいますが、結構珍しい種です。昔の標本で明科にいた記録があります。比較的、広い地域にいますが多産地がないため記録が少ないですね。安曇野では近年記録がなく、調査が期待されます。
田島 安曇野では近年記録がなく、調査が期待される種です。普通フラッシュをたくとオレンジになりますが落ち着いた色になっていて枯れ葉とマッチしてますね。
アズミキシタバ
宮田 名前にアズミがついているので、一度は見たいなと思っていました。霧雨に打たれながら撮った1枚です。夜遅い時間に飛んでくる種で、僕は21時頃からライトを付けて23時過ぎに撮影できました。翅の色は石灰岩に似ており、前翅がかっこいいですよね。
田島 蛇紋岩帯にいる種でカトカラの仲間です。翅の右に穴が開いていますが、羽化したときに枝に引っかかり成長に従い穴も広がったのかもしれません。光の当て方が工夫されており、印影がよく出ていていいですね。
イチモジフユナミシャク
宮田 初冬に出るチョコミント色が美しい蛾です。雌は翅が退化する蛾で、左は交尾している様子です。雌は飛べないのでフェロモンで雄を呼び寄せて交尾します。
田島 側面から交尾が撮れた左の写真は、翅が立っていて見やすいため雌の腹部の模様がきれいに映っていておもしろいですね。右の写真は雌の翅のあわい緑色が出ています。両方いい写真だと思います。
宮田島 2020年度を振り返る
田島 虫屋の趣味はあまり人と会わずに山でひっそりと行えます。そういう意味で、割と健康コロナ禍に適した趣味だと思います。仲間と採集に行くことはできませんでしたが、充実した1年をこの趣味のおかげで過ごせました。改めて蝶や蛾の魅力を実感させられましたね。
今年もコロナの影響は続くと思うので、よかったら皆さんもこの機会に蝶や蛾を趣味にしてみてはいかがでしょうか。
宮田 個人的な変化として、これまで夏は毎年同じ時期に同じ場所で蝶を撮るルーティンをこなしていましたが、新たなライトを買ったこともあり今年は蛾に力を入れました。ある蛾を狙って同じ場所でライトトラップを行い、10回全敗するという苦い思い出もできましたが、実験的な姿勢で蛾に向き合った1年でした。
蝶に関しては、この地域のどの場所にどの季節にどの蝶が出るか大体わかってきましたが、蛾は同じ場所でも時期によって全然違うものが撮れたりするので今後に期待です。
最近は、学生の蛾屋さんも多く、SNSで情報交換することで刺激を受けています。ただ4月から就職活動をするのでフィールドに出る機会は減りそうですが、就活も修論も蝶も蛾も頑張りたいと思います。
編集部より 田島さんはこの4月から就職し長野県を離れます。ただ宮田島は今後も続きますので、引き続きパワーアップする宮田島をお楽しみに!
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